現代人のための統計リテラシーその1 構成概念を直接測定しようとしてはいけない
観察しようとする構成概念を直接測定しようとしてはいけない。これは心理学系の研究において常識であり鉄則である。構成概念は文字通り概念であり、そもそも直接測定できない。
構成概念
construct
心理研究などにおいて、人の行動のメカニズムを説明するために、研究者によって人為的に構成された概念のこと。
構成概念の例として「思いやり」、「リーダーシップ」、「社交性」などが挙げられるが、これらは直に見たり、測定したりすることはできない。そのため、ある構成概念の存在を仮定した場合、その構成概念の影響を受けるであろう複数の行動や態度を測定し、構成概念の存在を検証する。因子分析は構成概念の探索や検証に用いることの多い手法であり、抽出された因子を構成概念と見なしている。
素人がアンケートを作成すると、しばしば「構成概念を直接測定しようとした」アンケートが生まれる。例えば、従業員満足度を調査しようとして以下のような質問を設けるのはあまり有効な方法ではない。
Q. あなたは現在の業務に満足していますか。 5. 満足 - 4. やや満足 - 3. 普通 - 2. やや不満 - 1. 不満
これは構成概念を直接測定しようとした質問の典型だ。この質問でわかるのは「従業員が【あなたは現在の業務に満足していますか。】という質問に対して何と答えたか」であって、「従業員の業務への満足度」ではない。「従業員の業務への満足度」を測定したいなら、「従業員の業務への満足度」とは何かを定義し、分解し、客観的・定量的に測定可能な変数まで分解する必要がある。たとえば「従業員の業務への満足度」という構成概念の場合、以下のように分解できる。
従業員の業務への満足度 ├── 希望する業務内容と現状の業務との距離 │ ├── 現在の業務内容 │ ├── 希望する業務内容 └── 業務量 ├── 現在の業務量 └── 残業時間 など ※この分解が妥当かどうかはひとまず置いておいてください。
ある程度分解していけば、直接測定可能な変数まで落とし込める。構成概念はこれらの変数の総体であり、直接測定することはできない。
直接測定すべきでないのは、なにもこういった概念に限らない。自然科学の分野においても、多くの場合観測したいものを直接測定できないので、しない。中学校の理科の実験を思い出してほしい。目に見えない二酸化炭素を観測するには石灰水を使う。石灰水に二酸化炭素を吹き込むと、炭酸カルシウムが生成し、白濁する。実験では二酸化炭素を直接観測しようとせず、石灰水の白濁を観測する。
物理量には適正な測定方法があり、構成概念もまた同じである。適正に分解して構成概念を観測できず、さらにその先にある目標を達成できない。
その1としたけど続かないかもしれない。